2022年4月29日金曜日

UFOの出てくる音楽/ニナ・ハーゲン 歴史の裏にUFOあり!?

東ドイツ出身の歌手・女優で、パンクのゴッドマザーとまで言われるニナ・ハーゲン。先日放送されたNHK「映像の世紀 バタフライエフェクト」で、2021年にドイツのメルケル前首相が退任する際、彼女の曲を軍の楽隊に演奏させたとして興味を持って調べていたところ、UFOに関する歌がいくつも見つかった。

妊娠中だった1981年、新しいバンドのメンバーを探すためアメリカに渡るが、カリフォルニアのマリブビーチの宿泊先で就寝中に目を覚まして強い光を放つ巨大なUFOを目撃。それ以降スピリチュアルにはまってしまい、酒もドラッグも肉食もやめ、UFOや精神世界のことをテーマにした歌を作るようになったという。
目撃についての詳細は分からないが、後述するZERO ZERO UFOの歌詞でその片鱗がうかがえるようだ。

映像の世紀では東西ドイツ統一後、首相になる前のメルケルとテレビの討論番組で若者の薬物中毒について口論になっていたシーンが流れた。当然ニナはドラッグ反対派で、政府の手ぬるいやり方を批判していた。アンチドラッグのきっかけがUFO体験だったのかと思うと、なかなか興味深い。
真偽はともかく、UFO体験によってその後の人生に影響を受けた人は多いんじゃないだろうか。信心深い人達にとっては、宇宙人というのは実際に会いに来てくれる、実体のある神様的存在なんだろう。

彼女についてこれまでほとんど知らなかったので、以下の紹介が的を射ているかどうかは自信がないことをあらかじめ割り引いて読んでもらえると嬉しい。

UFO

1981年リリースの彼女のソロ・デビューアルバム「Nunsexmonkrock」収録。
「京都でUFO、絶対的集中、超越的瞑想、空に見た、私は立っていた、UFO達が私達を拾いあげる、ロサンゼルスの地震、煙の警報、最も高き精神をあげよう、あなたは一人じゃない、真実を忘れるな! UFOがやった」
いかにもスピリチュアル系という感じのアンビエントなサウンド。
京都で何か見てUFOと誤認したのかとも思うのだが、彼女の唯一の日本公演は1985年3月だそうだ。もっともそれ以前に京都旅行に来ていたとしても別におかしくはないのだが、今のところその情報は知らない。西洋人から見た東洋の宗教の聖地みたいな感じで取り上げたのかな?
このアルバムには「Iki Maska」(イキますか)という明らかに日本語と思われるタイトルもあったり、彼女の日本感が知りたいところ。
(なお1987年にNHKが「ワールドネットワーク世界はいま」という番組のテーマソングをニナに依頼し、World Nowという曲が作られている。番組初回に彼女が登場したという話も)

ロサンゼルスの地震というのも、この頃カリフォルニアで大地震なんてなかったから、当時そういう予言みたいなものでも流行っていたんだろうか。13年もたった1994年に、いわゆるロサンゼルス地震(ノースリッジ地震)が起きたのは確かだけれど。

このアルバムにはDread LoveなどにもUFOという歌詞が出てくる。

彼女はファッションやPVだけ見ているとバカロックと思えるものも目立ち、同アルバムの代表曲Smack Jackもアンチドラッグの歌で「もうやめて! やめるか死ぬか…」と歌っているのだが、PVは面白く、ユーモアが感じられる。

Die Ufos sind da/UFOがやってきた

1985年リリース「In Ekstase」収録。英語版アルバム「In Ekstasy」には「Gods of Aquarius」として収録。
「水瓶座の神々がUFOでやって来た 私を愛し、あなたを愛する 彼らが言わねばならないことは真実 しかし教会はそれを否定する 神よ、彼らはいつ悟るのか 大きな解決策が必要です 原子力の汚染に耐えられない 愛、愛、決して満たされない 水瓶座の黄金時代 栄光の再臨」
水瓶座のなんちゃらとか、いかにもスピリチュアルな内容なのだが、曲はアップテンポでポップで楽しい。メイクや衣装はかなりどぎついね。

Zero Zero U.F.O

1995年リリース「Freud Euch」収録。
英語版とドイツ語版があり、それぞれ歌詞の内容が若干異なる。

英語版

「マリブのUFO、どこから来たのか知らない。目覚めたらそこにいた。ハーゲンダッツ夫人を麻痺させる。私の両の目で見た。嘘は言ってない。ピンク、ブルー、パープル、イエロー。なんてこと、とても柔らかな気分。水瓶座の神々がUFOでやって来る。 聖霊との交信は真実。教会はそれを否定するが、神よ、彼らはいつそれを理解するのか?」

ドイツ語版

「私のUFO、私に向かって飛んできた。その頃、私はまだマリブに住んでいた。どこから来たのか知らない。巨大な光が私の顔を照らしてた。パープル、ピンク、イエロー、グリーン、炎のような色をよく覚えてる。オレンジ、赤、白に青。神の愛のゲームのように、何とも言えない幸福。私は妊娠していたが、病気ではなかった。そしてUFOに乗っていた人々を見て釘付けになった。私が見たものをどう思う?」

こちらはアップテンポなバリバリのパンクサウンド。オリジナルはアメリカのパンクバンド、ラモーンズ(RAMONES)。1989年にリリースしたアルバム「BRAIN DRAIN」収録。
オリジナル曲ではUFOはアイダホに着陸し、「日本から来たようには見えない」「光の速さで旅をし」「嘘だと言うなら、この目で見たんだ」と歌われるのだが、歌が作られた背景はわからない。単に奇抜な存在として当時流行のUFOを題材にしたのかも?

ニナ版では自分が体験したマリブが舞台になっている上、全体的な歌詞もスピリチュアル要素が強くなっている。
母国語のドイツ語版の方がより具体的な内容になっており、もし歌としての脚色がないとすれば、UFOの搭乗者まで目撃したようだ。
しかし14年近く前の出来事でもあり、その間に思いが強くなり、記憶が変わっている可能性もある。懐疑的には、例えば米軍の演習の照明弾でも見たんじゃないかという気もする。

So Bad

1993年のアルバム「Revolution Ballroom」収録。
ジム・モリソン(The Doorsのヴォーカル)の死から広島やチェルノブイリの放射能汚染、ナチスの狂気まで、So Bad(残念だ)と思うものを片っ端から上げている中に、UFOの陰謀(The U.F.O. conspiracy)がある。
熱狂的なビリーバーだった当時の歌なので、いかにもといったところだが、ここまで堂々と力強く歌われるといっそ清々しい。
70歳近い現在の彼女がどこまでUFOや陰謀論を信じているのかはわからない。

Du hast den Farbfilm vergessen/カラーフィルムを忘れたのね(参考)

このニナ・ハーゲン、言論の自由のなかった東ドイツから亡命してパンクに目覚める以前から、本国で大ヒット歌手だった。
メルケルが退任時に演奏させた「Du hast den Farbfilm vergessen(カラーフィルムを忘れたのね)」は1974年の大ヒット曲で、19歳そこそこのニナがかわいらしい。
作詞はニナではないのだが、彼氏がカメラのカラーフィルムを忘れたためにせっかくの思い出が白黒になってしまったという内容。これは自由のない東ドイツの政治体制を暗喩したもので、当局の監視をかいくぐってリリースされた。
当時から奔放だったニナは秘密警察から監視されるほどであり、西側でどぎついパンク歌手として活動するのも、そしてまたUFO体験をしてしまうのも、抑圧されていたことからの反動だったのかもしれない。

メルケル首相退任式での「カラーフィルムを忘れたのね」の演奏

わずか1歳違いのニナとメルケル。同じ若き時、同じ東ドイツで鬱屈した生活を送っていたメルケルは「この歌は青春時代のハイライトだった」と語り、ニナも自分のこの歌が選ばれたことに「フェイクニュースかと思った」とFacebookに書き込んでいる。
ただし彼女が驚いた最大の理由はこの歌の作詞が、後に大がかりな児童性虐待で有罪になり、刑務所で自殺をしたクルト・デムラー(Kurt Demmler)だったということにあったようだ。これに対しニナは「歌から距離を置いたり、事実から目をそらしたり、なかったことにしたりはしない。真実から隠れることは卑怯であり、それは私にとって忌むべきこと!」と語っている。

メルケルの選曲については報道でそれを知ったほど事前に何も知らされておらず、(おそらく、反体制であるべきパンク歌手の歌が政治家の退任式に使われたことに)「裏切った」などという声もあったようだが、それに対しても「そうした判断は意地悪で不当だ。どうかご自愛ください。聖書にはこう書かれている。『愛することは憎むことに勝る!』」とした。さすがゴッドマザー、懐が広い。

Facebookからの拙訳

私は我々の首相が離任式に旧ドイツ民主共和国の歌 "Du hast den Farbfilm vergessen"(カラーフィルムを忘れたのね)という歌を希望したと聞きました(ちなみに私はこれはフェイクだと思うのですが……)。
……というのもこの歌はクルト・デムラーの作詞による歌であったからです。クルト・デムラーはドイツ民主共和国の「国家詩人」として特別な特権を与えられていたからです。後に組織的な児童虐待で有罪判決を受け、獄中で自殺した性犯罪者であることも……うまくいけば彼女の知るところになるでしょう。
(中略)
「クルト・デムラーに関する悪い背景情報があるにもかかわらず、この曲にはカルト的なステイタスがあり、また美しいと思います。親愛なるニーナ、あなたは今でも時々この曲を歌うのですか? それとも今はこの曲から完全に距離を置いているのですか?」
いいえ、私はこの曲と縁を切っているわけではありません。事実から隠れるつもりはありませんし、事実が存在しないふりをするつもりもありません。
私の聴衆もすべてのつながりを知ることができるし、知るべきです。真実から隠れることは卑怯であり、そのようなことは私にとって忌まわしいことです!
この曲の作詞者であり詩人であるクルト・デムラーが、ドイツ民主共和国において非常に特権的なアーティストであり、国家に忠実なソングライターであり、特に壁崩壊後は深刻で組織的な児童虐待を行い、その後モアビット刑務所で拘留中に首を吊って音もなく逃げ去ったという事実には、より一層傷つきます。
(中略)
ところで、退任の儀の選曲には友人も敵も同じように驚きました! 誰も事前に教えてくれませんでした。首相官邸から事前の連絡もありませんでしたし、誰も準備してくれませんでした。
今、私が「裏切り、売り渡した」とほのめかしたがっている人々に対して、私はこう助言することしかできない。どうかお気をつけください。そのような判断は非常に卑劣で、絶対に不当です! 聖書のマタイによる福音書にはこう書かれている: 愛することは憎むことに勝る!

——パンクは好きなんだけど、ニナ・ハーゲンなんて名前しか知らなかったし、そのどぎついファッションだけ見たらまともに聞くことはまずなかったろう。でも東西冷戦に翻弄されて来た彼女、メルケル、そして旧共産圏の人々の想いを知った今、「カラーフィルムを忘れたのね」を聴くたびに涙腺が刺激される。さっそくiTunes Storeで購入。ZERO ZERO UFOもいいね。ニナ版はストアになかったのでRAMONES版買った。
その後も少しずつYouTubeなどで聴いているのだが、ファッションはかなり奇抜だが、サウンドはゴリゴリのパンクではなく、かなりバラエティに富んでいる。

参考資料

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