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表紙だけに描かれた予言 「私が見た未来 完全版」より |
最近巷をにぎわせている、たつき諒の漫画「私が見た未来」。今年の7月5日に大災害が日本を襲うという内容の予言だというのだが、これを真に受けてしまった海外の観光客が日本に来ることを控えてしまい、航空便が減便されるなどインバウンドビジネスに影響が出ている。
たつき諒と「私が見た未来」とは?
- 1954年生まれの女性漫画家。1975年に少女漫画雑誌月刊プリンセス(秋田書店)でデビュー
- 1999年に朝日ソノラマから発売された単行本「私が見た未来」は1994〜98年に雑誌に掲載した作品をまとめたもの。その中の予知夢体験を描いたタイトル作は、朝日ソノラマの雑誌「ほんとにあった怖い話」1996年9月号に掲載されたもの
- 1999年に体力の限界から漫画家を引退
- 2020年頃に漫画が2011年3月の東日本大震災を予言したとして注目を集め、たつき諒を名乗るニセモノが登場したことから、自分が本人であると名乗りをあげる
- 絶版となった単行本はネットなどで数十万円で取引されたと言われる
- 2021年10月、飛鳥新社から「私が見た未来 完全版」を発売
予言内容
- たつき氏が長年書きためた夢日記が出典。それは厚めの2冊になっている
- 前述の2作に描かれた予知夢のエピソード
- フレディ・マーキュリーの死
- 大きな空洞にいる女の子の夢を見たら実在した防空壕で、そこで女性の遺体が発見された
- 伯父の葬儀に行った帰り道にちょうど1年前に見た夢と同じ風景を見た
- 人質事件の赤ちゃんの顔を夢で見ていた
- 友人が失恋したのを当てた
- 1996年夏に日本で起きる大津波
- 10代の頃から津波の夢を見ており、大津波が起きる夢の漫画のネーム(原案)を1981年に描いた。たつき氏は「この夢が東日本大震災の予知夢という自覚はなく、2025年7月の大災難に関わる夢だったのではないか」という
- 漫画には「9か6。96か? 夏?」との記載があるが、完全版に掲載された実際のネームを見るに1996年という日付が見られない。96夏というのはどこから?
東日本大震災(2011年3月11日)
- 単行本表紙のみの記述(漫画内での言及なし)
- 1998年のインド旅行でサイババと会い、帰ってきて間もなく(単行本「私が見た未来」の〆切の日)見た夢で「大災害は2011年3月という日付が見えた」ので、単行本「私が見た未来」の表紙にのみ「大災害は2011年3月」と書かれている。地震とは書かれていない
- 東日本大震災が起きてもたつき氏は予言のことを忘れていたので何とも思わず、夢が当たって騒がれていると聞いても「ふーん、そうなんだ」と受け流した
2025年7月の大災害
- 完全版の解説にて追加された予知夢(漫画にはなっていない)
- インドに行っている時(明確な時期の記載なし。前述の1998年?)に「日本列島の南側の太平洋の水が盛り上がる夢」を見る
- 2021年7月5日午前4時18分に「空からの目線で日本とフィリピンの中間あたりの海底が破裂(噴火)し、東日本大震災の3倍もある大津波が太平洋周辺国に押し寄せる夢」を見る。「2025年7月」という日付もしっかり見えた。「津波の衝撃で陸が盛り上がり、香港、台湾、フィリピンまでが地続きになるように見えた。震源地に向かう2匹の竜の映像も見えた」
たつき氏が見たという震源地のイメージ図
「私が見た未来 完全版」より - たつき氏は「震災は悲惨だが、その後の世界にはみんなで頑張ろうという強い意志による輝かしい未来が見えている。心の時代の到来、心と魂の進化が起こる」という
- 予知夢で見えた日付は「2025年7月」だが、完全版のあとがきにて「夢を見た日が現実化する日ならば、2025年7月5日ということになる」と書かれており、日付の根拠が曖昧。そもそもの夢で見た7月というのも、ノストラダムスの大予言(1999年7の月)の影響はないだろうか?
- あとがきの日付は完全版の版によって「2025年7月5日午前」と書かれているものもあり、曖昧
- さらに本件をモチーフにした映画「2025年7月5日午前4時18分」(2025年6月27日公開)は、タイトルからして夢を見た時刻の午前4時18分に起きるかのように扱われている
ダイアナ妃の死(1997年8月31日)
- 単行本表紙のみの記述(漫画内での言及なし)
- 1992年8月31日に「城の中で赤ん坊を抱いた女性とDIANNAという文字が見えた」夢を見た
- 日付は一緒だが、たつき氏は内容からは死のイメージが全くなく、「後から読者によって意味付けされたのかもしれない」という
- ダイアナ元王妃のスペルはDianaであり、Diannaではない
フレディ・マーキュリーの死(1991年11月24日)
- 1976年11月24日と1986年11月28日にフレディが亡くなったり、クイーンメンバーの銅像にフレディだけない夢を見た
- 前者の日付が同じ11月24日だったので、予知夢だったのではないか?
- 漫画「私が見た未来」では夢を見た日付は「1976年11月」としか書かれていないが、前年の1995年に書かれた漫画「夢のメッセージ」では「1976年11月24日」に見たと書かれているなど、記述が少々曖昧
予知夢を見た日付の有無 - 11月28日の日付は英国ニュースダイジェストという新聞にフレディの死亡記事が載った日付であり、初めて報道された日でも初めて知った日でもない
富士山大噴火
- 単行本表紙のみの記述(漫画内での言及なし)
- 1991年に富士山噴火の夢を見て単行本「私が見た未来」の表紙に描いたが、たつき氏は「噴火は象徴的なものであり、夢判断では世界恐慌やパンデミックによるパニックになるということなので、実際に大噴火はしない」という
- 同様の夢は2002年、2005年にも見ている
荒れてヒビの入った大地
- 単行本表紙のみの記述(漫画内での言及なし)
- 1995年1月2日に「赤い大地に大きなヒビと亀裂が走り、天上の女性に『連れてって』と言ったら『今はだめよ。5年立ったら迎えに来るわ』と言われた」夢を見た
- たつき氏も夢日記に「2001年1月来なかった」と追記している
- しかし完全版を出す今になって「(5年たったら迎えに来るという言葉は)2025年に私の役目(大災難に警鐘を鳴らすこと)が終わる日のことではないかと思うようになった」という
- 阪神・淡路大震災は15日後の1995年1月17日に起きているが、夢日記にはそれと関連づけるような内容がないし、 結局5年後の2000年にもその後にも、それらしい事は起きていない
- 2025年が役目が終わる日だとしたら、5年前の2020年は何なのかが不明
たつき氏が亡くなる夢
- 単行本表紙のみの記述(漫画内での言及なし)
- 1995年11月26日に「私の葬儀では白っぽい服を着てほしいと遺言に書いたら、みんなが白っぽい服で来てくれた。日付は7月15日と見えていた」夢を見た
- 2007年5月14日に「5月25日に私が死ぬ」という夢も見た
- 当然たつき氏はまだ亡くなっていない
考察
漫画の中、単行本表紙、解説文と、いろいろ予知夢のエピソードが語られているが、今現在まで当たっていないものも多く、当たっているとされていてもほとんどは内容が曖昧でどうとでも解釈ができる。この点はノストラダムスの大予言同様である。
分厚そうな2冊の夢日記から、当たったように見える(こじつけられる)エピソードだけが注目されているが、その反対に外れたエピソードが大量にあるはずだ。当たったようなものだけ宣伝し、外れた予言を無視するのがインチキ予言のやり口なのだが、仮にたつき氏に悪意がなくとも(本書を読んだ印象では悪意は感じられなかった)自分自身でそのやり口に陥ってしまい、自分は予知夢を見るんだと思い込んでいるのではないか。
そもそも大量に予言しておけばたまたま当たる事はあるだろうし、「夢で見た日付」だけでなく、「夢を見た日付」まで入れれば確率は上がるものだ。
たつき氏は元々大災害や人が亡くなる夢を見ることが多いように思われる。
以上を総合した結論としては、たつき氏に予知能力があるとは言い難く、大外れの先例であるノストラダムスの大予言や、巷にあふれる自称予言者達を見ても「数多く予言して後からこじつければ当たったように見える」以外に根拠もないので、今年7月の大災害は起きないだろう。
「大災害の後、輝かしい未来が見えている」などというのは、地球の破局の後に神や宇宙人がやって来て統治してくれるとか、人類が高度な存在にアセンションしてどうのこうのなどといった終末予言の典型的パターンだ。当然今まで幾度も繰り返されてきたそれら予言が一度たりとも当たった試しはない。
もっとも、地震は世界各地で大小様々毎日起きていることだし、特に日本では南海トラフ地震も懸念されている。地球温暖化による気象災害も増えており、たつき氏の予言と関係なくいつ何が起きてもおかしくはない。それに備えておく事は大切だ。
最悪のケースとしてはオウム真理教事件のように、予言を当てさせるために誰かが犯罪的なことを起こすことも考えられる。そんなことにならないことを願いたい。
たつき氏本人の見解
毎日新聞の取材に対し、「あくまで客観的に受け止めている」、予知夢については「皆様の自由な判断に委ねられるべきものだが、過度に振り回されないよう、専門家の意見を参考に、適切に行動してもらうことが大事だと思う」などと回答している。
——2025年7月の大災害の予言というのも、フィリピン海付近で噴火しそれが震源になるというものなので、仮にそれが当たっても日本だけが被害を受けるとは考えにくく、観光客が日本への渡航だけを控えるのもおかしな話だ。
たつき氏に社会を騒がせた責任は当然あると考えるが、予言が外れたからといってこれを過剰に責め立てるようなことにならないことを祈る。少なくともたつき氏は20年以上予言のことを忘れて静かに暮らしていたはずだ。
それを「東日本大震災の予言が当たった」と見つけて騒いだ人物、たつき諒になりすました人物、完全版を出版した出版社、さらにこれを真実かのように煽った人々(オカルト系YouTuberなどのネット民や一部のマスコミ?)、それを安易に信じてしまった人々がいるわけで、彼らにも責任の一端はあるだろう。
多くの人は1999年7の月のノストラダムスの大予言が外れたことを経験しているのだから、安易に信じたり騒いだりしてはいけない。
なお、漫画の中と解説の中とで記載内容が微妙に違っていたり、何のことを指しているのかわかりにくい記述もあったので、完全に把握できなかった箇所もあることをお断りしておきます。
参考資料
- 飛鳥新社「私が見た未来 完全版 電子版(Kindle)」 2021年10月8日 ver1.0発行(紙の書籍の「私が見た未来 完全版」2021年10月20日 第2刷に基づいて制作)
- 超常現象の謎解き 数々の大災害や著名人の死を警告する予言漫画『私が見た未来』
- ASIOS代表 本城達也氏のサイト
- 初版本の目次も掲載
- オカルトエンタメ大学 話題の予言書『私が見た未来』をオカルト懐疑派が考察。2025年7月に日本で大災難は起きるのか?皆神龍太郎先生が教えます。
- ASIOS 皆神龍太郎氏が解説するYouTube動画
- 文春オンライン 2022/12/27 『私が見た未来』作者が明かした、東日本大震災を“予知”するまで「轟音とともに津波が迫り、逃げ惑う人々の中で…」たつき諒さんインタビュー
- 文藝春秋2022年4月号「ノストラダムスと呼ばれた女」からネット記事化
- 予知夢の漫画を書くようになってから、完全版が出版されるまでの事情に詳しい
- テレ朝news 「7月に大災難」訪日香港客減少 マンガ内容や予言拡散 宮城知事「非科学的な噂話」
- 毎日新聞 2025/5/15 漫画の災害予言→旅行中止相次ぐ 作者たつき諒さん「前向き」の真意
- CNN 2025/5/20 漫画が「予言」する大地震に不安増大、外国人客の訪日中止や延期相次ぐ
- CNN(英語版) 2025/5/19 A Japanese manga claims a natural disaster is imminent. Now, some tourists are canceling their trips
- もあダネ 2021/6/29 たつき諒になりすました人の正体は何者?現在のTwitterアカウントや目的についても
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