ヒル夫妻誘拐事件

1961年9月19日/アメリカ/ニューハンプシャー州ランカスター

概要

ベティ&バーニー・ヒル夫妻

最も有名な宇宙人によるアブダクション(拉致誘拐)事件

詳細

未知との遭遇

9月19日深夜11時頃、カナダでの休暇を終えたバーニー・ヒル(Barney Hill)、ベティ・ヒル(Betty Hill)夫妻がニューハンプシャー州の自宅への帰り道、まずベティが夜空に明るく輝く光点を発見した。それは見る見る位置を変え、近づいて来るように思えた。
人工衛星か旅客機かと思ったが、光点は輝きを強めて近づいてきたため、車を止め、双眼鏡でそれを観察していたところ、その物体は地上30mばかりの上空に停止した。プロペラの音、ジェットの噴射音も聞こえなかった。
それは円形の物体で、窓らしいものが2列に並んでおり、窓からは5、6人の異様な人影が双眼鏡を覗くバーニーを見下ろしていた。
恐怖を感じた夫妻は車に戻り一目散に逃げ出したが、車の後方から「ビーッ」という音が聞こえてきた。「あの音は何だろう?」「わからないわ」という会話が交わされたところで二人は意識を失う。

再び「ビーッ」という音に意識を取り戻すと、二人は何事もなかったように車を走らせていた。しかしいつの間にかUFOの目撃地点から56kmも南の町アシュランドに来ていたことに気付き、不審を覚える。
証言に基づいてDavid G. Bakerが描いた宇宙人のイラスト
その晩以来、夫妻は神経障害にかかってしまった。特にベティはドライブ中に異星人に誘拐されて身体検査を受けるという悪夢に悩まされることとなる。

耐えきれなくなった夫妻はUFO研究団体NICAPに調査を依頼した。帰宅にかかる時間が2時間ほど余計にかかっていることが指摘された(他に、帰宅後バーニーの靴のかかとが不自然にすり減っていること、ベティの服が争ったかのように裂けていたこと、二人の時計が同時刻で止まっていたことなどが判明した…という説がある)が、UFO目撃が事実らしいこと以外はわからなかった。

2年後の1963年、ボストンの精神分析医、ベンジャミン・サイモンに神経症の治療を託す。サイモン医師による3回にわたる逆行催眠中に夫妻は、空白の2時間にUFOの中に誘拐され、身体検査を受けていたことを以下のように語った。

車の前に黒い服を着た小柄な人影が立ちはだかった。頭髪はなく、頭の両側に耳のような穴があいている。横顔がのっぺりしていて鼻や口がちゃんと確認できない。目は不釣り合いに大きく、頭の端まで切れ上がっている。好意的な表情はうかがえない。
その一団は車のドアを開けると二人を引きずり出し、UFOの中に連れ込むと、バーニーとベティを引き離し、身体検査を始めた。
ベティはイスに座らせられ、目、口、耳をのぞかれ、髪の毛と足の爪を少し採取される。服と靴を脱がされて寝かされると、体に針を当てられた。長い針をへそに差し込まれた時、ベティは激痛に悲鳴を上げるが、リーダー格らしい一人が目の上に手をかざすと痛みはすっかり消えた。
一方のバーニーも腹部に奇妙な装置を乗せられる。その影響か、後日下腹部にイボのようなものが生じ、手術をよぎなくされる。
宇宙人達は夫妻の身体的違いに困惑したようで、黒人のバーニーと、白人のベティの肌の色の違い、バーニーの入れ歯などについてテレパシーで説明をさせられた。
その後、ベティは天体図を見せられた。たくさんの点を線で結んだこの図の意味を問うと、太い線は貿易ルート、実線は時々行き来するルート、点線は探検隊のルートだと教えられた。
この直後、二人は記憶を抹消され、車に戻された。
ベティが見せられたというスターマップ(ベティの手書き)にフィッシュの解釈による星の名前を入れたもの
サイモン医師は催眠状態の二人に宇宙人の姿を描かせたところ、絵は細部にいたるまで一致していた。ベティにはあの天体図を描かせることもできた。
サイモン医師は夫妻が催眠下で述べた内容に否定的である。夫妻が初めて体験した流星などの空中現象を、無意識のうちに無理矢理理解しようとしたため、不自然な形に体験を変形させたのではないかと述べている。

1966年、オハイオ州の女性理科教師マージョリー・フィッシュが、太陽系付近の恒星系の立体モデルを作り、ベティが見せられた天体図によく似たパターンを発見した。それによると中心の大型恒星はレティクル座ゼータ1、すぐそばに線で結ばれた星はゼータ2と推測されるという。

バーニーは1966年に脳溢血で早逝したが、ベティはUFOの研究に取り組み、2004年にガンでなくなった。

ブルー・ブックによる調査

米空軍のUFO研究組織プロジェクト・ブルー・ブックでも調査がなされた。
結論から言えば、「データ不十分」ということであった。
この調査で同時期にレーダーによってそれらしい飛行物体が観測されていたことが明らかになったが、強い気温逆転(上空が暖かく、地上が寒い現象。しばしば電波観測などを狂わせる要因として取り上げられる)がその地域に生じており、それによってレーダーは地上の物体を捉えたものだろうと推測された。

また夫妻の目撃したものは、目撃方向の情報がないため断定は避けているが、当時南西の空20度ほどに出ていた木星であったろうと推測している。
星図を再現してみたところ、木星、土星、そして半月くらいの月がかたまって出ていたことがわかる。
事件当時の南西の星空

ヒル夫妻の当夜帰宅ルートと事件現場


より大きな地図で UFO事件マップ を表示
マーカーは拉致現場とされる位置だが、だいたいの位置である。

考察

宇宙人による拉致誘拐、レティクル座の宇宙人グレイという、その後のUFO事件の典型的パターンのはしりとなった非常に有名かつ重要な事件であるが、懐疑的な見方として以下のような説がある。
  • 車の行き来のほとんどない夜間の単調な長距離運転により、当時二人がハイウェイ・ヒプノシスという催眠状態になっていたのではないか。
  • 当時まだ珍しかった黒人と白人の夫婦だったので、日頃の差別から精神にストレスがかかっていた節があり、それが精神障害の原因になった可能性もある。
  • ベティが、宇宙人に誘拐される悪夢の内容をバーニーにも話していたので、催眠下の二人の証言が一致したのは当然である。(ただし、なぜそうした夢を見るようになったかは不明である)
  • 空白の2時間と言われるものについても、UFO目撃時刻の記憶が曖昧なため、本当にあったのか疑わしい。
  • この時の宇宙人の姿がいわゆるグレイ型宇宙人の原型になったとされるが、二人による宇宙人の描写が次々と変わり(当初の証言では宇宙人に髪の毛があったり、赤毛のアイルランド人、ナチスの軍服を着ていたりしたそうである)、当時放送されていたSF番組「アウターリミッツ」に出てきた宇宙人の影響でグレイ型になったのではないかとも言われている。(夫妻は番組を見たことを否定している)
  • ベティは事件後も何度もUFOを目撃したと言っているが、街灯の見誤りであることをUFO研究家から指摘されている。

フィッシュ女史による天体図の解釈も、かなり無理があることが指摘されている。

この事件を題材にした「UFOとの遭遇」(1975年10月20日)というテレビドラマが放映された直後より、「自分も似たような体験をしたことを思い出した」という人たちが全米に続出することとなる。有名なトラビス・ウォルトン事件も放映の2週間後である。

参考資料

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